『だはは、悪ィ。
 カノジョとデートで宿に泊まってたわ……』


 連絡用の水晶片を手のひらに浮かべて通信すると、漸く研究室のスカラへと連絡が取れた。
 だが、出発後初めて連絡がついた、連絡塔役のスカラの第一声がコレである。

 普段温厚なユアンも、怒りと呆れの混じるものを抑えながら、

「……先輩、僭越ながら申し上げます。
 貴方が連絡塔役をやると仰っていたのに、いきなり連絡放置とは何事ですか。
 教授は行方不明になった上、先輩まで連絡取れなくなった私の身も少しは考えて下さい。
 上に取り合って、今から役を変わって頂いても、此方は一向に構いませんよ?」

 普段よりも少し強い口調で、スカラを叱責する。


『悪かったってば……。
 少なくともこの調査中は、予告なしの外泊は控えるようにするって……』

「……本当ですか?」

『ああ、本当だって』

「……今回は信じますが、次はそちらに一旦帰還し、上に直接申しますから」

『あー、こわこわ……おとなしい奴程、キレた時怖いな

「……スカラ先輩、何か申しましたか?」

『やー、何でもねぇって!
 そ、それより……さっき帰ってきたら、お前の母さんから届け物があったから、そっち転送するわ』

「マ……母さんから?」


 マズイと言わんばかりに話を反らすが、母親からの届け物という方に気が逸れたユアンは気づかなかった。

 次の瞬間、持ってきた転送箱の中に、コトリと小さい音がする。
 ユアンは片手でそれを開けると、中には瓶が複数と、手紙が1枚入っている。

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ユー君.

異世界の調査に配属されたと知って、驚きましたが、
元気にやっていますか?

学院時代から殆ど帰って来ない子でしたが、
研究所に勤務後、実家に帰って来なくて、
みんな寂しがっています。

聖夜や年末年始には戻って来られるのかしら?
貴方の誕生日も近いし、今年も家族でお祝いしましょう。

入れてある瓶は、いつもの栄養剤です。
あまり根詰め過ぎないようにね。

                          ママより.
************************


「(…………ママ)」

 入っていた手紙に、小さく微妙な笑みを浮かべた。
 男3人も育て、兄や弟と比べて、少し放任的な所はあるが、母親として心配する所は心配しているようだ。

『確かに届けたからなー?
 ま……教授の事は“いつもの事”だから、あんま気にすんな。
 オレの時も、初っ端から居なくなったと思ったら、数日後ふらっと出てきたし』

 本当に、近所の店にでも行ってくるかのような口ぶりだったので、ユアンは間の抜けた顔をする。

「あの……今の話、初めて聞いたのですが……」

『言ってなかったっけー?教授、放浪癖が昔から激しかったらしく、興味あるものが目に飛び込むと、今やってる事を忘れて飛びついて、気がついたら数日不在とかしょっちゅうやらかしてるらしいぞー?』

「…………」

 ──重い沈黙が流れた。

 研究所内で、ゴメス教授の研究チームが“バルーンズ”というあだ名があるのが、何となく理解出来た。
 風船のように気付いたら何処かに飛んでいく教授に、唯一残っていたのが、そんなのも気にしないマイペースな先輩のスカラ。
 真面目に入った新人にはあまりに不人気かつ、毎年所属希望者が居ないチームで、ユアンも別の教授のチームへ希望を出していたが、人気のあるチームで希望者が殺到し、ゴメス教授のチームへ入る事が決まった。

「……とにかく、此方は1人しか居ませんので、調査を中断して教授の捜索を優先するか、調査を続行するか決めないといけません。本来ならば、中断して探す方が良いのでしょうけれど……」

『あー、それならオレが教授の捜査を受け持つから、ユアンは身の安全を確保しながら生物の調査して、余裕があったら捜査してくれればいいや。どうせ探すだけ無駄な気もするし?』

「……分かりました。お願いします」

 最後の一言には一瞬、“此方も思っていた事をさらっと口に出された”と思ったが、苦笑を浮かべるしかなかった。
 


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【テリメイン海洋(魔法)生物レポート】

■ナマコガール■
特徴:頭がナマコ、それより下が人の女性の身体(同封の写真参照)。
被り物にも見えるが、被り物ではないようだ。
所謂“妖艶なポーズ”をするが、あれは求愛行為なのだろうか……?

危険性:確認した個体を見る限り、回復魔法しか使わなかった為、低め。
性質も攻撃的ではなく、変なポーズをしてくる以外は、寧ろ臆病な生き物に感じる。

言語の読解:言葉は話さないが、理解は出来るようだ。


■テリメインマイケル■
特徴:所謂“棒人形”に近いような見た目(同封の写真参照)。
間の抜けた顔をしているが、爆弾を両手に持っているので、見た目に騙されぬよう。

危険性:低~中。爆弾を投げつけながらの体当たりをしてくる(海でも)。

言語の読解:第一声が「はーいこんにちはー、バカンスに来ました」。
話を聞くかは別で、理解はできそうだ。


▼報告追記
スカラ先輩と連絡が取れた為、教授捜索の割合はあちらに負担していただく事となった。
引き続き、現地で生命体の調査を行う事とする。

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