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【テリメイン海洋(魔法)生物レポート】

■(修正)ナマコガール■
特徴:頭がナマコ、それより下が人の女性の身体(同封の写真参照)。
被り物にも見えるが、被り物ではないようだ。
所謂“妖艶なポーズ”をするが、あれは求愛行為なのだろうか……?

危険性:確認した個体を見る限り、回復魔法しか使わなかった為、低め。
性質も攻撃的ではなく、変なポーズをしてくる以外は、寧ろ臆病な生き物に感じる。

(修正箇所)
回復だけかと思いきや、顔から何か取り出して攻撃してきた。
攻撃力は然程ないが、念の為注意。
取り出す行為も少しグロテスクなので、心臓の弱い者やそれらが苦手な者も注意だろう。

言語の読解:言葉は話さないが、理解は出来るようだ。

▼報告追記
前回の記述に誤りがあったので、訂正を入れる。
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「ハーヴェイ、すまんなぁ。
 面白い資料があるっていう船に乗せてもらって、そこで世話になって、そのまま酒飲んでお前さんの事忘れてとったわい!」

「…………教授、あなたって人は……」


 その翌日、あれ程行方が分からなかったゴメス教授が、ぱったりとユアンの居る拠点に現れた。
 近所の酒場に行って、ひょっこり帰ってきた風な口ぶりである。

 元々、陰が薄いだの存在感がないだのという自覚はあったが、こんな風に忘れられて数日も放置されたのは、初めてであった。
 幼少期、隠れんぼでそのまま忘れられ、自分だけ日が暮れるまで隠れていた事もあったが、それよりもタチが悪い。

 ユアンはスカラの時以上に、浮かぶ青筋と怒りを抑えながら、怒りのオーラを漂わせている。
 流石に上司に楯突くのは我慢しつつも、引きつった笑みを浮かべながら、

「……で。“面白い資料”って、如何なものですか?」

「よく聞いてくれた!資料を漁らせて貰ったら、その昔、海底に沈んだ大きな島があって、そこには幾つかの宝玉やら財宝やら、未知なる生物やら力が眠っているって話なんだ」

「…………よくありそうな話ですけど」

「ン、それが……その資料だけじゃなく、それに準じた情報も幾つか集まって、ちょっと引っかかってなぁ……」

「未知なる生物やら力……宝玉……ねぇ」

 半ば話半分程度に、胡散臭そうに聞いている。
 その時のユアンは、どうせ怒りを沈める為に話を逸らそうとしているのだろうと思っていたようだが……。

「そんな不確定な情報よりも、この世界の海洋魔法生物の調査をお忘れでしょう?
 少しですが、此方でレポートを書いて、写真付きで提出しておきましたから」

「さっすがハーヴェイ。このチーム期待の新星!」

「(……貴方たちに任せたら、1つも上がらないからでしょう)」

「取り敢えず年の瀬だから、一旦研究室の方へ引き揚げるぞ」

「……へ?」

 思わず素っ頓狂な声を上げる。
 勿論、帰りたいと思わなかった訳ではないが、まだ始まったばかりで、年末年始など関係なく此方に居るものと思ったらしい。
 他はそれが普通なのやも知れないが。

「それがな、少し準備が足りなくなりそうだし、人数も流石に少ない。
 俺ぁ別にハーヴェイと2人で現地調査しても構わんけど、知り合った船長に、それっぽっちの少人数じゃ、戦いの素人でもあるし止めておけって言われてな……」

 どうやらゴメス教授と知り合った“船長”とやらは、マトモな人らしい。
 教授が単に我儘で帰りたいと言うのならば、遅れた分を取り戻す為、反対する事も少し考えたが。

 ユアンは、教授の居ない間の事を、掻い摘んで話す。
 探索時の護衛を雇った事、今まで見つけた生物の調査書を転送した事、まだ入り口付近だがこの海の事。

 そこまで話すと、教授は嬉しそうに目を輝かす。

「新人、よくやった!もうお前は立派に俺の右腕だな!
 ……だが、護衛はともかく、調査班の手が足りん……悔しいが、俺たちだけで調査するには、この海は広すぎて、それこそ年単位で調査が終わるかも怪しい。
 断腸の決断だが、研究所に応援を頼もうかと思う」


 他のチームが介入すると、教授を嫌う派閥に先を越される可能性も高い。
 だが、元々足りていないのだから、これ以外の選択肢にする理由もないだろう。
 現に、分岐点も幾つか発生し、手も足りなくなってきている。この先何が出るのか、本当に分からなくなっていた。

「……それならば、一旦準備がてらに帰還しますか」

「先ずは帰ったら、研究所でパーティーだ、ガッハッハッ!」

「その前に、報告きちんとして下さいね?……あと、始末書の提出を、お忘れなく」

「ぐっ……」


 こうしてユアンは、教授を連れて一旦元の世界へと帰還した。
 年明け、彼らにはどんな運命が待ち受けているのだろうか──?
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